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龍見聞
−日本・富士の伝説−

 

りゅうミツマタの龍神           語り手:高処黎明
 

  静岡県富士市の生贄伝説だが、全体的にヤマタノオロチ伝説と似通っている。
  場所はミツマタの淵のあるいかにも水害のキツそうな湿地帯。証拠に徳川4代将軍の昔は、富士郡の川が一気ここで合流し、しかも満潮では海の水が逆流するという土地だったという。

  荒ぶる水あるところに龍神は存在する。淵にちなんでミツマタの龍と呼ばれた、この龍あるいは蛇が暴れて大氾濫を起こし人々に苦難を与えていた。真っ黒な姿をしたこの龍は潮を高く吹き上げ、田畑を水没させるという害をなす(この伝説でも龍と大蛇と混同されている)。
  困り果てたこの土地の地元民も、大蛇を鎮める為の祭礼に毎年14歳になる少女を生贄として淵に投げ込んだのだった。これによって一時的に害がやむのだが、ひとたび怠ればたちまち不作と禁忌が起こるので、生贄はやむことなく毎年差し出されていった。
  ・・・・やがて、村中の少女がいなくなってしまったのだ。
  そこへ本人達には災難だが「折りよく」、京へのぼる若い巫女7人が東海道を旅してきた。困り果てた村人は彼女たちへ、大蛇への生贄になってはくれないかと頼み込む。
  世俗の女性であればまだしも、巫女である彼女たちが無下に断るわけにも行かなかった、籤により彼女たちのうち一番若い『お阿じ』が生贄に決まった(クシナダ姫もまた7人姉妹の末娘だった)。・・・それにしてもかなり切羽詰まった村人も、脅迫まがいの要求をしたのではないだろうか。
  とにかくお阿じはひとり村にとらわれ、残り6人は解放された。しかし解放された巫女たちも京にのぼるにも気が気ではなく、お阿じひとりを死なせてならぬと引き返し全員が沼に身をなげて絶命してしまう。

  さて、ことを知らないお阿じの方は、生け贄になる前夜に浅間大神に祈願していた。と、なんと浅間大神があらわれ「身代わりに人形を投げ入れよ」と教えてくれたのだった。
 龍神鎮めの祭の当日、彼女はミツマタの淵にたったひとりで置き去りにされていた。やがてさかまく風と波が起こり、とうとう水中から龍神があらわれた。
  教えられたとおりお阿じは人形を水に投げ込み、一心に祈る。すると雲に乗った浅間大神が顕現し、大蛇を退治したという。大蛇は鱗を3枚残して姿を消した。
  こうして命拾いをしたお阿じは、大喜びで先に行った6人を追いかけた。しかしくだんの沼で悲劇を知ってしまうのだ。自分の後を追うつもりだったと知ったお阿じは嘆き悲しみ、姉たちを憐れんでみずからも沼に身を投げたという。

  さあ、一切の心配事が消えた後、さすがに村人たちも少女7人の死には心を動かされ6人の神女を祀る六王子神社を沼のかたわらに、そしてお阿じを祀って阿字神社をミツマタの淵へと建立して彼女たちの霊を慰めた。今もこの地には「生贄」という地名があり、ミツマタでは人身御供のかわりに人形と赤飯を沈めてやるようになった。
 

 
 

りゅうヤスカタノカミ          語り手:高処黎明
ホツマツタエに読むヤマタノオロチの化身
 

  コノハナサクヤ姫が「浅間」に祭られるのは江戸以降であるから、ミツマタの龍神伝説の浅間明神はそれ以前のアサやアソと言った南方語・アイヌ語にも見られる、火山や温泉にゆかりのある水神(蛇・龍)に対抗する属性の神であると思われる(おそらくアラハバキとかそこらへんではなかろうか、あるいは彼女の父オオヤマツミか)。どうやらスサノオではないらしい。
  おそらくコノハナサクヤ姫はその荒ぶる神を鎮謝するために、後期浅間に祭られた神だった。巫女的な要素も強い。
  彼女が火を抑えるエピソードと言えば、コノハナサクヤ姫がニニギノミコトへ身の潔白を証明するため産屋に火を放つ下り。
  ホツマツタエによればこの時、「遠くの峰から様子を見ていた龍が、急に舞い下りて来た。そして水を吐きかけ、子が這い出すのを助けた」と言う。この龍は正体不明のまま姿を消してしまうが、コノハナサクヤ姫自身も炎そのものよりも火伏せ・水の女神といわれ長く信仰を受けていた。

  だが同ホツマツタエによれば・・・ニニギノミコトに捨てられた、彼女の姉イワナガ姫こそ、かのヤマタノオロチの転生だった!
  かつて何人もの女を食い殺してきた、しかも嫉妬深い蛇神の化身、妹への妬みは尋常ではない。彼女は奸計でニニギノミコトをそそのかし、サクヤ姫の子がミコトではない男性の種子であるといつわりの噂を信じ込ませたのだ。
  彼女は室屋に篭る前に、身の潔白の証明にもうひとつ、大内宮に自ら植えた桜に誓いをたてていた。すなわち「桜意あらば わが孕み 仇種ならば花しぼめ 正種ならば産む時に咲けと誓いて・・」、桜よ心があるのなら、と願をかけていたのだった。
  もちろん龍に救われた以後現在の6月といわれるが、季節外れにも狂い咲きの満開になり、しかもそのまま咲き続け散ることがないという変事が伝えられた。これらを聞き、ニニギノミコトもいっぺんに疑いが解けたという。
  この桜は今では天然記念物になり、「不断桜」の名に残り、今も咲き誇っているという。
  
  さて、大蛇神の化身イワナガ姫もこんなもので引き下がったのはどうしてか。
「時にスサノオ これを斬り 身をヤスカタと祀るゆえ またヤマヅミの女と生まれ 妹を妬む罪の鳥・・・(一部訳)」  
  ・・・かつてヤマタノオロチを倒したスサノオは、ヤスカタノカミと名づけてこのオロチを祀っていたという。しかもそのせいで、オロチはイワナガ姫に転生した。だが祀られていたからこそオロチの怨念もやわらいだものとなっており、せいぜい嫉妬で妹を陥れる程度であったという。
 

 

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